2009年05月30日

相似、然る故に

最後のゴーストが、怨念めいたうめきを上げながら消えていく。
私の前にいる男─まあ、要するに今しがたあれを葬った人間だが─は、しばし張り詰めた様相で周囲を窺っていたが、
やがてそれ以上敵の気配が感じられない事を悟ると、息を吐いて構えを緩めた。

「…片付いたな。真澄さん、先に─」
「蒼刃、お前とは一度決着をつけないとならないな」

男─霜月・蒼刃は、私に声をかけようと振り返りかけたそのままの姿勢で、しばし硬直した。
 
 
「…は?真澄さん、いきなり何を…」

硬直が解けたらしい蒼刃は、気を取り直したように私の方へ歩いてきて、何の話だと言わんげに問いかけてくる。
疑念の色が、彼の顔中に宿っているのが見て取れた。
まあ、確かに脈絡なかったからな。仕方ないな。それは認めよう。
発言の意図をはかりかねているようすの蒼刃を見据えて、私は口を開く。

「お前に藍那は渡さんという事だ」

びし、と人差し指を突き付けて宣言する。
と、蒼刃は戸惑ったように私の顔を見て…

……あ。なんか「お前大丈夫か」的な感じが蒼刃の視線に宿ってる気がする。
おのれ、完全に馬鹿にされて…いや、そういう奴でないのは知ってはいるが。
いるが、でもやっぱりムカつく。
感情と言うのは往々にして理不尽なものなのだ。

むっと眉を寄せて蒼刃を見上げる。
見上げないと視線が合わないのもまたムカつくのだが。10センチくらい身長を奪い取りたい。
いや20センチ…。…はちょっとあれだな。秀一郎が泣きそうだな。いや、10センチの時点で泣くかも知れな……

……いや、まあ、それはさておき。

「馬鹿にしてるだろお前。言っとくが俺は本気だぞ。いくらパパだからと言ってもな」
「俺はパパじゃない!?」
「何を言う、自認しておいて今更」

いつもどおりきっぱりと切り返すと、蒼刃はうっと言葉に詰まってこめかみを手でおさえた。
きっと、なんでこうなったんだとかなんとか、自分の軌跡を思い返してへこんだに違いない。
何でなんて、そんなの蒼刃だからに決まってるだろう。
と、いつもの追い討ち常套句が頭に浮かんだが、今日は言わないでおく。まだ宣戦布告の途中だ。
凹まれっぱなしでは話が進まん…あ、でももう既にへこませてしまったな。うーん。

「…わかった、1万歩譲ってそれには口を挟まないけど…でも、皆だって神戸の事は気にかけているじゃないか?」

…とか悩みかけたが、そこはそれ、打たれ慣れてるかの御仁、復活も早い。
なんだ、なら容赦なく言えばよかっ…だからそうじゃなくて。

「皆はいい。だがお前は色々と言動が被るから駄目だ」
「言いがかりじゃないか!?」

蒼刃が叫ぶ。
たがそんな抗議なんて聞かない聞こえない。
言うだけ言い残して奴の横を抜け、私はさっさと廃屋を先へと歩む。
数歩先行ってちらっと後背を窺うと、蒼刃はしばらく何やら言いたそうに微妙な表情をしていたが、
やがて大きく溜息をついて、私の後を追ってきた。

「別に、みんなで助け合うのは普通の事なんだから、そんなに拘らなくても…」
「……」

追い付いてきた蒼刃が横からかける言葉には答えない。
というより、適切な返答ができない。
…別に其処まで拘っている訳でもないからだ。
ないのだが、何となく、本当に大した理由なんてないけど、蒼刃にだけは負けたくないと、
ただそれだけの事で、大きな事を言ってみただけなのだから。
もちろん、決して奴が弄られだからとかそういう理由では……ないとは言いきれないが。

…あれだろうか。本能的な親近感。
いや、何も私が自分を弄られと認識しているというわけではないのだが。
そういうことではなく、有り様の相似というか……とか言ったらまた弄られを肯定しているように取られかねん。
なんという泥沼の論理……
おのれ蒼刃め。どうあっても私を弄られの道に引き込みたいか。

まあ、そんな逆恨みはさておいて。
とにかくだ。
私にとって、手の届く限り皆を守るという想いも行動も当たり前のもので。
同じようなものを抱えているように見える蒼刃に対して、何となく負けたくない気持ちを抱いてしまっているのではないだろうか。
たぶん。よくわからないが。

…などと言うことを考えながら進めていた足を、ぴたりと止めた。
顔を上げて見据えた先。
この廃墟を統べる元締め様のおわす、突き当たりの大部屋だ。
わらわらと生者の存在を嗅ぎ付けて現れる雑魚たちの一番奥に、ひときわ邪悪な存在感を放つ、それ。

…しかしどこのゴーストタウンもそうだが、あれだけの雑魚が一体どこに身を潜めているのやら。
地縛霊はともかく、妖獣やリビングデッドは特に。
いや、まあ、どうでもいいけど。知ったところで何が変わるわけでもないし。

「…ま、丁度いい。蒼刃、勝負しようぜ。どっちがたくさん倒すか」
「え? いや、あまりこう言うのはあれだけど、真澄さんはレベルが…」
「気にすんな。お前が突っ込んで削ったのを後ろからちまちま倒すから」
「…真澄さん、アビ切れじゃなかったか?」
「あ」

…そう言えば。
ちょいとここまで張り切りすぎたか、既に手持ちは射手が数手だけ。
武器はと言えば、袖の内に仕込んだ暗器手甲のみ、遠距離攻撃のできる公算はない。

ないが、だが。

「俺の方が行動遅い。だからお前が先に突っ込んで敵が弱ったところを以下略」
「真面目に戦ってくれ!?」
「何を言う。大真面目、かつ至って合理的じゃないか」

強い奴が削って弱い奴で止め、はゲームでも常套手段じゃないか。
なんて主張すると、蒼刃は今日何度目になるか分からない溜息をつく。
あまり溜息つくと幸せが逃げるぞ。
…ん?だから奴は弄られから脱却できないのか?それは新説だな。

「…わかった、それでいいよ…でも変な勝負は受けないからな」
「そんなに藍那を渡したくないと言うか…」
「いやそういうことじゃなくてな!?」

隙なく臨戦態勢を整えていた蒼刃が、動揺で一瞬構えを崩しかける。
突っ込みに余念がないのはいいが、油断は禁物だぞー…と、動揺させた本人が言うことではないが。

「はいはい。じゃあ、そういうことじゃないんだったら、なんだよ」

横目で見上げて、問いかける。
蒼刃は構えを崩さないままで、私の方を見下ろして。


「何って…だって、真澄さんだって大事な仲間なんだから。
どうしても譲れないときは仕方なくても、張り合いたくはないじゃないか」


そういうことだよ、と告げた蒼刃の声音は恥ずかしいくらい真摯で。
しかもそれを、いつものあの穏やかな、これ絶対女の子引っ掛けるだろという笑みでぶっちゃけるものだから。
私は思わず、明後日へ顔を逸らしてしまう。

……ああ、もう、こいつは…。

「…売約済の奴まで口説くとは…なんという」
「って、違うからな?!」

誰も何も口説いてないだろう…!!と必死の叫びが廃屋の廊下に反響する。
私はそれを聞かないふりして、奴の横で魔法陣を展開し、同じように臨戦態勢を整える。

そんなの、さすがに言われなくたってわかっている。
…でも、あれだ。
……恥ずかしいじゃないか。礼を言うにしろ何にしろ、お前の言葉を素直に受け止めるのは。

私なら、思っていたってそんな恥ずかしいことは言えやしない。
有り様は似ているのに、こういうところだけは思いきり真逆。
どこまでも朴訥でまっすぐで、…そう、悔しいことに、こいつはかっこよすぎるのだ。いろんな意味で。

そんなところにあこがれにも似たものを感じている自分がいて。
きっと、だから何がなんでも負けたくないのではないだろうか。
だって、あこがれているだなんて素直に口に出すのは、悔しいじゃないか。

……ていうか。ああ、ていうか。
そんなことを延々考える時点で、恥ずかしいにもほどがあると言う話で…!

「…あーもう!先行くからな、蒼刃!!」
「ちょっ、真澄さん!?」
込み上げてきた気恥ずかしさを誤魔化すように床を蹴って、直近のゴーストに一撃を見舞う。
結局先に突っ込むんじゃないか…!などと後ろから言われて、自分がさっき言った言葉を思い返したわけだが。

……まあいいや。めんどくさい。
後ろから機を窺うなんて性に合わないし。

が、勿論勝手に突出してきた獲物を相手が見逃すはずがなく。
わらわらと寄ってきた奴らのうちの一体が、鋭い爪を振り上げて─

「─全くもう…あまり出すぎるとフォローできないぞ?」

溜息混じりに言いながら、私の前に立った蒼刃がそれを受け止めた。
お返しとばかりに気魄の籠った拳を振るえば、打ち据えられた異形は呆気なく霧散して。

ちなみに、口ではあんなことを言いながら。
ちゃっかり奴の立ち位置は絶妙に私をボスの射線から覆い隠していたりするわけで─。

…。
ちくしょ、やっぱかっこいいよな、こいつ。

でもそんな事を素直に認めるのも口に出すのも癪だから、
私は明日からもまた、こいつに張り合い続けるのだ。
張り合うということが既に敗けを認めていることのような…とかは気にしない。
気にしたらそれこそ敗けだ。ということにしておく。

本当に、勝てないな。
なんて一瞬でも思ったのを振りきるように頭を振る。

…よし。弱気になるな私。
ともあれまずは追い抜かすところから始めよう。
無理だなんて思ったら敗けだ。敗けを連呼している現状もなんか悔しいが。

まあ、うん。とりあえず。

「とにかくまずはこいつらぶちのめすか!」
「は?真澄さん何をいきなり大きな声を」
「細かいことは気にするな!」

何はともあれ決意を新たに。
とりあえずの目標だ。超えてやる!覚悟しときやがれ。







蛇足。

結局のところの戦績は、見事に惨敗だった。

ついでに戦闘不能になっただなんてな…くそ。また借りが増えた。
いつかまとめて返してやる…と意気込みながらも、
恐らくそれは、きっと遥か遥か遠い話になってしまうに違いない─。
posted by 月代真澄 at 02:42| Comment(0) | SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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